現況調査と耐震診断
勝山市の西側、永平寺町と隣接する地域には明治から昭和初期の民家が多く残っている。
この地域の越前の農家型に分類される古民家の特徴は
玄関入口の両脇に下屋(ツノヤ)を張り出して、1階内部は玄関側から、大きな玄関ホール(ニワ、オイエ)+田の字の畳の間(座敷・仏間・ナンド・ナカノマ)が続き、庄屋クラスの大きな規模になるとさらに奥にボウズベヤを持つ。
築50年を超える福井の古民家の中でも、
○越前瓦の切妻屋根
○妻側の外壁が格子組としっくい塗り壁で仕上げられている
○下見板が張られている
上記の外観の特徴をもって、福井県では「ふくいの伝統的民家」に指定をしている。
越前の風土と人々の暮らしぶりが住宅に現れている「福井の伝統的民家」を活用して、地域固有の景観を大事にしたコミュニティーづくりを目的に、この外観の保全を条件とした補助金制度もある。
ただ、築100年を超えるような古民家では、老朽化が著しく進んでいたり、耐震性・強度、断熱・省エネ性能などの機能性が現代住宅に比べると無いに等しく、補助金制度が設けられていても改修費用の方が大きため、建物の存続には所有者の熱い気持ちの方が補助金制度より重要になってくる。
この古民家は、高齢の所有者が住み続けることが困難になったために空家になり、それを偶然に目にされた他府県在住のご家族がUターンの拠点にと決断し購入された。
古民家再生へのオーナーご家族の要望は
夫婦と子供たちの今後を見据えた生活空間への改変
大地震に対する耐震改修
高い断熱性能と省エネ性
を必須条件として、古民家での生活を楽しみたいとのことだった。
耐震診断のため行なった現況調査をまとめておくと
木造2階建て、床面積301㎥
4間×8.5間の上屋(母屋)に半間の下屋(縁側)を三方に廻し、玄関両脇(東西)にツノヤ(下屋)を張り出している。
屋根は桟瓦(越前瓦)葺き
1階外壁は杉箱下見板の上部に化粧貫と土壁+しっくい仕上げ
2階外壁も同じく杉箱下見板に妻壁がしっくい壁の格子組
典型的な越前の伝統民家の外観になっている。
内部の構成は
28畳相当の「ニワ」を玄関ホールとして、その両脇(ツノヤ)は「ダイドコロ・チャノマ」と浴室になっている。
玄関ホール(ニワ)の奥には田の字の和室が続き、ブツマとザシキが並ぶ。ブツマの奥にはさらに「ブツダンノマ」と「ボウズベヤ」があり、浄土真宗の影響が強い間取りになっている。
玄関ホール(ニワ)は天井高が3.6mと高く、ケヤキの柱が差鴨居で固められていて、その上部には化粧貫と土壁・しっくい塗りの格子組が古民家の空間を特徴付けている。
田の字の4間の和室は襖と障子で区切られ、それを取り囲む縁側も大きなガラス戸が入れられていて壁が少ない。
地震や台風の時に抵抗する構造要素としての土壁は「トコノマ」「ブツダンノマ」に少しある程度で、天井下(ランマ上)の小壁も伝統的民家の構造要素としてカウントする。
柱は玉石を礎石として建てられていて、外周以外には土台や足固めは入れられていない。
明治・大正期の農家型民家の特徴は、2階部が補助空間として考えられているため階高が低く、上の写真でも天井下に小屋組の登梁が顔を出している。
2階個室の内部造作は、後で行われたもので、玄関ホール(ニワ)の真上は「ツシ」と呼ばれる物置がそのまま残っている。
ツシからは小屋組が確認できる。
鉞ではつられたままの丸太が登梁形式で組まれていて、囲炉裏の煙出しの名残がそのまま残っている。
耐震診断は日本建築防災協会「木造住宅の耐震診断と補強方法」の「一般診断法」でまずは行なった。
伝統的民家では、主たる構造要素は上記のように少ない「土壁」のみだが、太い柱と差鴨居で構成される「垂れ壁」も構造要素として有効なので、ここでは「方法2」の手法を採用している。
診断の結果は、やはり壁が少ないことから、
1階部で0.08前後、2階部で0.2〜0.3程と「1」を大きく下回っている。
大地震(震度6強から7)時に倒壊の可能性があるとの判定結果になる。
ここで取り上げている古民家は、大規模ではあるが典型的な構成をしているため、この判定結果は福井(越前)の伝統的民家全般に当てはまると言って良い。
この1を大きく下回る判定数値を1に近づけると補助制度に該当するため、耐震計画の目標値になるが、伝統的民家の特徴や利点を活かした計画になるようなアプローチをここではしている。
次に続く。