日本の住宅ストック(住宅戸数)は6,200万戸(2018年)で、一世帯あたりの戸数は1.16というから家は余っている。
どのくらい余っているかというと、850万戸が空き家になっているらしく、空き家率は13.6%ということなので、周りに住人不在の住宅が珍しくないと思える感覚と一致する。

住宅の売買の現場では、土地の値段とウワモノ(既存住宅)の値段の合計で値段が表示されるが、築年数が20〜30年を超える住宅が建っていると土地の値段からウワモノの値段が差し引かれる。
建物が解体された更地の状態が良いので解体費が減額される。

しかし、「古民家」と呼ばれる築100年を超える住宅だと状況は大きく異なり、建物に価値が付き、土地代+建物の値段で取引されることがある。
古民家と呼ばれる住宅は、ものすごく古い家というだけではなく、その時代の地域社会の様子をよく現している家のことで、間取りと姿形から地域の風土と社会背景をうかがうことができて、使われている材料と技術が今の現代住宅に比べて優れていることがあげられる。

縁あって、調査中の古民家は、

正確な情報はこれからになるが、大正時代に移築をされた民家と聞いている。
間取りから、この地域の江戸末期の農家型の形態をそのまま受け継いでいるので、近くに建っていた有力農家のまだ新しい家を買い取り、持ってきたということだと考えられるが、移築が当たり前に行われる時代なので不思議でもなく、柱に残る仕口痕からうかがい知ることができる。

玄関を入ると板敷の大きなホールがある。
この部分は、越前の農村部では昭和に入っても土間であることは珍しくなく、「ニワ」、「オイエ」等と地域によって呼ばる。
煮炊き用の囲炉裏があり、農作業の場としても使われるために大きな空間になっているが、経済的に余裕ができてくると衛生上の理由から板敷に造り替えら、農作業から解放される。

台所にカマドが導入されて、夏場の囲炉裏での煮炊きがなくなり、ガラス窓が入って明るい近代的な住宅に変わり、電気設備が整い、囲炉裏も姿を消して、屋根から煙だしも取り除かれる。

大工技術は親方から弟子に受け継がれる時代なので、木の組み方・架構方法は今のように急に変化することはない。
天井の構造梁を受ける大桁は丸太から四角に成形された製材になっているが、柱、差鴨居、化粧貫、現しになった化粧の梁桁…家の作り方は伝統構法そのもので、近世と大きく違わない。

「ニワ」の上部は物置のツシになっている。
土壁で防火構造の煙だしと思われるものが残っている。

「ザシキ」や「ナカノマ」の畳の下には、暖房用の小さな囲炉裏が残っていて、

縁の下では、石を土塗りで積み上げて耐火が施されている。


この古民家は、主要な構造部材はケヤキが使われ、上段になった「ブツダンノマ」があり、縁側廊下にまで長押が廻されていて、化粧材に色付けがされているなど、上層農家の造りが見られる。
改修計画に向けて調査を進めていきたい。

2021.04.03