耐震補強計画–限界耐力設計法
前回の続き。
耐震診断の結果、1階部分の構造評価が「0.2〜0.3」と著しく低い結果となり、「1.0以上(大地震で一応倒壊しない)」を大きく下回ることがわかった。
この築100年を超える伝統的古民家をUターンの移住先に決められ、住み継ぐために全面的にリノベーションを決断されたご家族の工事目的の一つ…「耐震化」についてその計画方法をまとめる。
地震や台風の時に建物を横方向に揺らす力が働いて、建物が変形するとき
上のように平行四辺形に壁や柱が傾き、また元に戻ることが望ましい。
この歪みが少なければ、壁や天井に損害が無く、そのまま使い続けることができるが、大地震や大きな台風の発生で、建物が大きく揺れて、変形の大きな「平行四辺形」になったり、平行四辺形から「四角形でない歪な形」に変形すると
「建物の倒壊」になり生命の危険につながる。
前述した耐震診断の評価「1以上」の大地震時に一応倒壊しない とは
上の図のⅢ(中破)、最低でもⅣ(大破)に留めて「大地震でも人命は守る」という考え方になる。
構造補強の方法は、在来工法の一般的な住宅を対象にした場合、
「在来工法の一般的な補強方法」
1.基礎を鉄筋コンクリートで補強する
2.筋交などの耐力壁を適切な位置に設置する
3.床組、小屋組がねじれないように補強する
4.劣化部、不朽部を修繕する
で、構造の評価点を0.7〜1.0を超えるように計画する。
これは、現行の「建築基準法」等の基準に定められている構造強度に近づけることを目的にしている。
一方で、日本の歴史の中で積み上げられてきた伝統的構法の建築物の利点は…
地域の風土に適応して発展・継承されてきた民家の価値(建物独自の価値)
地域の街並みや景観を特徴づけている価値(地域・共同体の価値)
世代を超えて受け継がれてきた時間の価値(歴史的価値)
にあり、これを生かすことを目的にすると「在来工法の一般的な補強方法」では伝統的古民家の利点を生かしきれない板挟みにあう。
ここで取り上げる農家型の古民家の特徴をリストにすると
太いケヤキの柱と差鴨居で組まれた大きな空間
フスマや障子による自由な間仕切り
縁側の開放的な外部とのつながり
など、日本の気候・自然に合う、現代の住宅では見ることができない和の住空間がある。
また、太い構造材を木組みにして、土壁で仕上げられた伝統的古民家の構造的な特徴は、高い変形性能(粘りつよい)にあることが多くの実験データから判っている。
在来工法の住宅の大地震で倒壊に及ぶ変形を超えて、さらに建物が倒れて行っても、安全が確保される変形性能があることがわかっている。
伝統的構法の耐震要素は
土壁
太い柱と梁の木組み
貫、足固め、長押、木摺り、板壁などの伝統的な工法になる。
それぞれは大きな耐力を発揮しないが、小さくても多数が組み合わさって全体で耐力を発揮する。
伝統的構法の特徴を活かした耐震補強計画のため、今回は「限界耐力設計法」を採用している。
もともと有している粘り強さを拾い上げて、それを生かすような高い変形性能がある耐震要素で補強をして、「大地震時に建物は大きく変形はするが”倒壊”に至るまでの変形量は大きい」ことを確認することで、建物の安全を確保することを目的としている。
次回、具体的な補強方法につづく。