具体的な補強方法
前回は補強の設計方法「限界耐力設計法」について簡単に取り上げた。
伝統的な木造建造物が有する構造的な特徴は「大地震など大きな力を受けた時に大きく変形はするが粘り強く耐える」という点にある。この特徴を活かすように計画している。
建物を構成する柱、梁桁、壁など構造要素のうち、地震の力に抵抗する部分を耐震要素と呼び
土壁
太い柱と梁桁の木組み
貫、足固め、長押、さし鴨居、小壁(腰壁や垂れ壁)、板壁
などの要素が伝統的な木造建築にはある。
床の間の全面の壁、天井下の垂れ壁などの土壁は有効な耐震要素になる。
伝統的な木組みの柱と差鴨居、化粧の貫としっくいの土壁は、受け持つ力は個々には小さいが、集まれば力を発揮する。
現在主流の在来工法でよく使用される筋交は
個で強い抵抗力を持っているので、適切な位置に配置することで大地震に強い建物に役立っている。
一方で、建物が大きく変形したときに、その変形についていくことができずに、折れたり、外れたりすることが実験で判っている。
筋交などの強い構造壁は、建物を硬くする方法としては有効だが、建物の変形が大きい時には変形性能が伴わないのでここでは使用しない。
この伝統的古民家の補強計画で補強追加される耐震要素は、既存の土壁と同じ性能の「荒壁パネル」としている。土を工場で固めてパネルにした製品で、定められた寸法の木下地にビス止めをする。
既存の全面土壁、垂れ壁などの耐震要素に、新たに荒壁パネルの耐震壁を加算して、耐震性能を目標値に上げて行く。
目標とする耐震性能は、大地震時にどこまでの変形を許すのか、その数値(変形角)を設定する。
この古民家は、「福井の伝統的古民家」に認定されていて、「勝山市の歴史的建造物」として「まちなみ景観創出事業」の補助を受けている。
伝統的古民家の補助事業と同時に耐震補強工事を行うと補助金の加算があるので、今回はこれも申請している。
この耐震補助要綱の勝山市の内規には
最大応答変形角が1/30以下
積雪時に1/15以下
と定められているためこの値を目標値にする。
再度まとめると、
震度5程度の中地震時に対して、1/120以下(主要な構造部分に補修するような損傷がない)
震度6強を超える大地震時に対して1/30以下(倒壊、崩壊しない)積雪1m相当時は1/15以下
上記の変形角を目標の数値とする。
これは現在の建築基準法で建てられる新築の木造建物と遜色ない性能になっている。
次に補強計画の手順は、
この伝統的古民家が有する耐震要素、主に全面土壁・垂れ壁、柱の寸法を図面に示して
そこに荒壁パネルの補強壁を配置しながら、建物の変形角がどれくらいになっているかを確認していく。
上の図の赤字で注記された部分が、追加された荒壁パネルの構造壁になる。
Uターンを予定されている依頼主のご家族構成により、和室の個室化と水回り設備の再配置を希望されたことで、構造壁による部屋割りが可能になった。
構造壁は、建物の外周部に均等に配置されており、壁の上部に梁がある箇所で、足元には足固めを入れる。
「大地震時に柱が動くことが免震構造になる」との考え方があるが、その場合にはどの方向にどれくらい動くのかを予測する必要があり、不確実な要素が多いので、ここでは柱は動かない方法で検討する。
柱は玉石の礎石に立てられているので、土間コンクリートで固定し、柱ごとにジャッキアップして高さをそろえている。
柱の通り筋に構造壁が追加されるので、その足元をヒノキの足固めで繋ぎ固定する。
耐震壁の最大寸法は長さ6尺、その下地を杉材で組んでいく。
既存の土壁に耐震補強の荒壁パネルの壁を追加した様子。新しく柱を立てて構造枠の内法に荒壁パネルを貼る。
荒壁パネルの止め付けは、定められたステンレスビス。
柱の不朽部は根継ぎで取替え補修を行った。
最後に、耐震補強後の限界耐力計算の数値を上げると
いずれも1階部分
積雪考慮 中地震 X方向=1/153 Y方向=1/158
同じ 大地震時 X方向=1/21 Y方向=1/23