断熱性能と一次エネルギー消費量

前回まで3回にわけて、伝統的民家の耐震補強について記録してきた。
続いて、断熱改修による省エネ化について記しておく。

2022年に省エネ法が改正されて、建築物全般について省エネ性能が必要になった。
ただし、一定規模以下の住宅(300㎡未満)については、省エネについての説明義務でよいとされ、適合までは努力目標としているが、実質は省エネ性能が求められている。

しかし、建築物の新築、増改築の全てにおいて省エネ基準のクリアを義務付けると、伝統的な古民家の改築や伝統的和風住宅の新築が難しくなるため、「気候風土適応住宅」の基準を設けて、断熱性能の外皮基準の適応除外ができるようにしている。

住宅のような生活の基本となる建物において、住人の省エネ化への目的は、国が掲げるスローガン=「脱炭素社会の実現」から「家計の光熱費のコストカット」に本音があるので、日本ならではの伝統的民家を「気候風土適応住宅」として別ルートを用意しても、持ち主の省エネ化への要望は非常に高い。

温暖な他県から北の福井へ移住されるご家族が、ふくいの伝統的民家を棲家に定めて、改修目的の主題に「冬暖かくて夏涼しい省エネ住宅」と定められたが、それも理解できる事で、時代の社会的な要請で建物の造りが変わっていくことは、いつの時代にも行われてきたので、古民家の省エネ化は伝統であることと相反しない。
「変えないことが伝統」=保守的立場とのバランスをどう取るかが問われていると考える。

施主ご家族からは、高い断熱性能と気密性が要望された。しかし、古民家としての外観を保存しながら、高気密を確保することは、施工上、たいへん難しく、できる限りの「スキマふさぎ」をすることで高気密化はご理解をいただき、下記に断熱改修による外皮性能についてまとめた。

伝統的な木組みの工法と土壁・しっくい塗り+化粧貫の外観で構成される木造2階建ての住宅の2階部分は、大きな物置空間(ツシ)が半分を占めているので、2階部分は断熱区画の外として扱うことにした。

天井の断熱材

1階所室の天井に断熱材を入れて、このラインで断熱区画をしている。

1階玄関ホール(ニワ)の天井裏は、物置空間(ツシ)で、土壁と化粧貫の取合い部は隙間も多い。
床に気密のためのシートを全面に貼った。

気密シートの施工後、フェノールフォームの断熱ボード(熱伝導率0.02)を厚み90mmにして敷き込み、また、物置としての床板を貼った。
この部分の熱貫流率は0.21W/㎡K。

和室等の所室の天井裏は、2階床の板を外して、厚み155mmのロックウール(熱伝導率0.038)を敷き詰め、

縁側の天井は張り替える際に、同じくロックウール155mmを充填している。
この仕様の天井の熱貫流率は0.29W/㎡K。

壁の断熱材

耐震要素として、既存の土壁と荒壁パネルで計画しているので、土壁の蓄熱性能を生かすように断熱材を外部側に入れている。

耐震壁でもある荒壁パネル(厚み26mm)の外部側に30mm前後のフェノールフォームを貼った。

既存の土壁(厚み50mm前後)の外側にも同じく断熱材を貼り、
壁の熱貫流率は約0.5W/㎡K。

床の断熱材

床の下地(根太間)にフェノールフォームの断熱ボード厚み50mmを充填した。
この部分の熱貫流率は0.52W/㎡K。

リビングとダイニングキッチン部にはヒートポンプ式温水床暖房を敷設している。

窓・開口部

高い断熱性能を得るために樹脂サッシに入れ替えている。

ガス封入トリプルガラス、熱貫流率は2.33W/㎡K。
窓からの熱の出入りが大きいので、開口部の断熱性能で全体の数値が大きく変わる。

外皮平均熱貫流率の計算結果

上記の数値から、
外皮平均熱貫流率 0.57W/㎡K(福井5地域の基準値0.87W/㎡K以下)
冷房期の平均日射熱取得率 1.2(同じく基準値3.0)

との計算結果となっている。

一次エネルギー消費量の計算結果

冷房設備 エアコン
暖房設備 エアコン+ヒートポンプ式床暖房
給湯設備 エコキュート
等の一般的な設備機器の仕様で107.8GJ(低炭素建物に関する認定基準119.7を下回る)

全面的な改修工事で省エネ化を図っているが、特に開口部の断熱性能の影響が大きい。