今年の冬は、福井県全体にかけて多くの雪が降り、福井市内でも屋根雪を降ろす人がいて、珍しい冬となった。 

特に雪の多い奥越地方は、毎年、雪で屋根が壊れる被害が多く、それを防ぐために屋根雪を降ろすことを余儀なくされ、屋根に上がるから落下事故が絶えない悪循環にある。 
いつも、春先にこの被害の相談を受けて、損害保険の申請書類への対応も含めて何件か対応する。 
今年も、大野市内の築30年はゆうに越える住宅の相談を受けたので、まずは現地の確認に行った。  

朝から天気も良かったが、前の晩に少し雪が降ったので、屋根に上がることを躊躇したが、上がってみると雪が溶けていたので、やっぱり春が近いことを実感した。 
軒先の出が少なく、小屋裏からも確認したが、垂木の劣化も全く見られないので、雪による損傷は想像を超える事が多い。

帰り際に、依頼主のご両親からお茶を勧められたのでごちそうになった。 
年齢を伺うと90歳前後のご夫婦で大変健在でお過ごしになられていて、話を伺うほどに大変魅力のある方で引込まれてしまった。 
まず最初に、急須でアールグレイを入れてくださるのだが、お湯を入れたとたんに急須の底からお湯が漏れてくる。  
私も慌てて、依頼主と言葉を合わせるように「底が割れていますよ」と声をかけるのだが、奥様は全く気にせずに、 
「知っているのよ。でもこの急須がお気に入りで・・・」と全然動じない。 
よく見ると、一木つくりの木の急須で、細かい彫り物がしてある。 
火鉢に目を移すと、使い込まれた鉄瓶から松風が聞こえる。 
卓袱台も天然木の年輪のきれいな珍しいものだ。 
ご自身の人生とともに歩んできたお気に入りの日用品が身の回りにあり、その一つ一つが大事にされ、毎日、使われてきているのがわかる。 
また、話を伺うと一言一言が心にそのまま響く。 
特に、印象に残っている言葉は、依頼主のお子様の話に及んだ時に、「好きな事はなんでもさせてあげなさい。 習い事ならちゃんといい先生を見つけて、なんでもさせてあげなさい」 
と優しく、強く言っていたことだ。 

よく、言われる頭では分かっていることだが、初めて聞いた言葉のように心に響いた。 
自分と自分の親とのこと、自分と自分の子供のこと、いろいろこの依頼主親子の会話を隣で聞いていながら考えた。 
言葉では簡単に子供の可能性を信じて・・・と言われるが、気を付けないと親の一方的な価値観や考え方の尺度でその可能性を図っていることが多い。 
 

社会の中でいろいろな可能性というが、それも、既成の観念での可能性の中で話をしているにすぎない。 
私の倍ほどの人生を重ねてこられた、このご夫婦の考え方の自由は、私の考えの及ぶ自由を遠く越えている。

 2011.03.05