ふくいの伝統的民家…改修・土壁の構造補強

 

 
 小舞土壁が真壁で納まり、柱や梁が現しになって、漆喰塗りで仕上げられた伝統的民家は、地域の特徴的な景観の形成に役立っている。
 
また、積雪が多い日本海側の風土に適した知恵と工夫が随所に見られ、福井の伝統的民家の所有者には、住み続けていただき、継承していくことの意義を理解していただきたいと考えている。
 
ただ、築50年を超える伝統的民家には、保有する地震耐力に問題がある。
 
それは建築基準法が、過去の大地震被害の度に改正が行われ、必要とする基準がその都度、変更されてきたために、以前の建築物については、最新の基準を満たしていないことが原因となっている。
 
ちなみに、昭和56年(1981年)に新耐震設計法への改正があり、それ以前の建物については、耐震診断と耐震補強を実施するための補助制度があり、全国で推進されてきている。
 
ただ、1995年阪神淡路大震災では木造住宅の被害が大きく、平成12年(2000年)建築基準法の改正がされているため、昭和56年(1981年)以前ではなく、平成12年(2000年)以前の木造住宅は耐震性で弱いと考えた方が良い。
 
写真の伝統的民家を「一般診断法」で耐震チェックをすると、1階部分で0.3、2階部分で0.5との計算結果になる。1以上が震度6強の大地震時において「倒壊しない」と判定される指標となるので、写真の民家のような木造住宅ではこのような低い診断結果になることが多い。
 
 そこで、改修時に耐震補強も併せて計画することになる。
 
今回の改修計画では、外壁を伝統的民家にふさわしい杉の下見板に変更するので、外壁部分で耐震壁を設けることにしている。
 

 
室内側に既存の土壁を残しているので、その外側の断熱材の上から構造用の面材を貼り付ける仕様にしている。
 

 
 偏心を考慮して、耐震壁のバランスをとるために開口部を耐震壁に変更することも行っている。
 

 
今回の耐震補強では、耐震の評価点は0.3から0.7まで上がるが十分ではない。
それは、今回の改修が外壁を対象としていることから、室内部分において耐震要素を設けることができないためだが、その点については、将来、内部の改装時に耐震壁を適切に配置することで、比較的簡単に解決される。
 
一度に耐震補強をすることは理想ではあるが、予算と改修計画に合わせて、耐震補強も計画に組み込み、向上させることで、伝統的民家を維持、継続していくことにつながると考える。
 
 2016.09.10

 

 ふくいの伝統的民家…改修・土壁の断熱

 

 
外壁の板金を外して、既存の土壁が現しになるまでの解体作業をしている。
この民家の土壁の下地は、茅小舞で、間渡竹に竹釘(ウグイス竹)を使っていないことがわかる。
 

 
荒壁土は縦の小舞側(内側)から塗られていて、土壁の厚みは55mm程度。
 

 
この後、外側の壁チリ(柱の面から土壁までの距離)に断熱材を入れて、土壁を蓄熱層にした断熱改修を予定している。
 
冬季に暖房の熱が壁からどれくらい逃げていくのかを数値として熱貫流率(W/㎡K)で表すが、この土壁の熱貫流率を計算すると 3.13W/㎡K(小さいほど熱が逃げにくい)になる。
最近の住宅では、高性能グラスウールを使用した壁で0.37W/㎡K(地域差があるので福井市での数値)程度なので、一般的な土壁の古民家で断熱対策をしないと、室内の熱がどんどん失われてしまう。
この数値を下げて(暖房熱を逃がさない)冬に暖かい室内空間にするために、壁を断熱材で補強する必要があるわけだが、土壁の室内側に断熱材を入れることが、大きく数値を下げる一番簡単な方法になる。
 
ただ、この方法では土壁の一番の利点であるところの調湿機能が生かされない。
 
高い湿気と室内外の温度差が結露を引き起こすため、計画的な換気をして、防湿層をつくり、高性能な断熱材を使用して、その上で珪藻土などの調湿性があると言われる仕上げを施すケースが見られるが、調湿性能では土壁には遠く及ばない。土壁は湿気どころか水を吸う。
 
また、土壁には大きな蓄熱性があり、これも冷暖房時に利用出来る。
 
暖房で壁が温められていると輻射熱で肌が温かさを感じるし、冷房で壁が冷やされていると涼しさを感じる。壁の蓄熱性が大きいと冷暖房時の熱を維持してくれるので省エネになる。ただ、夏季の日射取得で熱がこもる恐れがあるので、それは開口部の対策で軽減する必要がある。
 
古民家の土壁の調湿性と蓄熱性を活かすために、室内側に土壁をそのまま残して、外側に断熱材を貼る方法が有効になると考えている。
  

 

 
土壁の外側にボード形状の断熱材(フェノールフォーム)を貼ることで熱貫流率が0.72W/㎡K程度になる。
先に紹介したグラスウールの壁よりは断熱性で数値的に劣るが、大きな調湿性と蓄熱性が期待できるので、これからの住まいに適していると考えている。
 
 2016.07.28

 

 ふくいの伝統的民家

 

築60年程の認定を受けた民家。よく手入れされている。


 
「ふくいの伝統的民家」という制度がある。

地域性を大事にした特徴のあるまちづくりのため、福井県は、平成18年に全国でもさきがけて「福井県伝統的民家の保存および活用に関する条例」を施工して、民家の保存と活用を推進している。

制度には「ふくいの伝統的民家」の認定とそれを保存し住み継いでいくための補助がある。

まず、「ふくいの伝統的民家」とは何かというと、「農家型」と「町家型」の外観の特徴を指定している。

「農家型」は三角の妻壁の格子組と漆喰の白壁。
 

 
「町家型」は通りに面して並行する屋根と庇、格子戸など。
 


どちらもどこか懐かしい昔の風景という感じだが、なぜ、「ふくいの伝統的民家」の外観の特徴がこれなのかというと、司馬遼太郎「街道をゆく、越前の諸道」の一節、

「切妻が、正面になっている。壁はみな白壁を用いてうつくしく、さらには、タテヨコの構 造材を白壁から浮き出させて、格子模様のように露出させているのは、越前大工 の伝統的な美的配慮によるものであろう」

が影響して、または、根拠となっている。

ただ、個人の考えとして、越前、嶺南の大工さんの技術力は相当のもので、社寺にも精通し、なんでも建てることができる職人さんが多く存在していたため、もっと、複雑な民家を建てている。外観の見た目だけなら幅広く認定をした方がいいと思っていて、それに木材の組み方や土壁、漆、建具など伝統的な技術が残っているかを加えた方がいい。

そして、認定をされた「ふくいの伝統的民家」の外観を保存していくための補助制度がある。
金額として大きいので、この制度で修復工事をされた民家が多くある。痛みが激しいと、土壁に漆喰仕上げ、下見板の修繕にはかなりの費用がかかるので、長い年月の間に鉄板貼りにされてしまっている外壁を元に戻すために補助されている。

こうして、次の世代に残される民家がまちづくりに生かされることを期待されている訳だが、住んでいる人にとって、地震に対する安全性や夏冬のすごしやすさにまでつながっていないと、本当の意味で次の世代に役立っているとは言えない。

性能の高い土壁を生かして、住みよい住環境に生まれ変わるような改修を目指している。
 
 2016.07.22