土壁の修繕と保存(常興寺 中塗りまで)

 
この秋に行っていた小舞土壁の荒壁の乾燥を待って、中塗りまでの作業の様子。
 

 
壁際の空き予防のため暖簾(ノレン)。
 

 
養生テープが仕上げの面なので、少し下がった位置に打ち付けている。
 

 
荒壁土が十分乾燥して細かいヒビや際に隙間が出てくるのを待ってムラ直しする。ムラ直し用の土は、中塗り土にふるい砂とスサを入れたもの。
 

 
そして、また十分に乾いたのを待って中塗りを行っている。
中塗り土は淡い茶色なので、このまま仕上げにすることもあるが、ここでは漆喰仕上げの下地になる。
この後の砂漆喰下地と漆喰仕上げについては、来春の二期工事に併せてすることにしている。
 

 
外壁裏面の漆喰壁が割れていたところや剥離していたところの修繕もほぼ完了している。
また、痛みの激しかったトタン板を杉の下見板貼りにしている。
下見板は本来なら縦貼りにする方がいいのだが、本堂裏面は毎年、屋根の落雪で押されるので、痛んだ時の部分取り替えを考慮すると、箱下見がいいと思う。
パネル方式で取り付けられるので、簡単に取り外せて一枚から杉板の交換ができる。
 

 
柱間が広いために壁のしわりが大きく、漆喰壁が割れやすい原因になっていた。
そこで、内部に半柱を建てて補強も行っている。
 
これまでの漆喰仕上げの土壁が90年ほども保ってきたので、今回の壁も同じように残ることを心から願っている。
 
 2016.11.25

 

 土壁の修繕と保存(常興寺 荒壁付け)

 

 
続いて、茅小舞の下地に荒壁を塗り付ける作業を行っている。
壁土は、瓦の原料にもなる粘土に砂を加えて、藁を数回に分けて練りこみ、寝かせて、ほどよく藁の繊維がほどけた状態のもの。
 

 
小舞下地のマス目から向こう側に "ムニュ" っと土が顔を出すように、ぐいぐいと押さえつけながら泥土をつけていく。
 

 
裏側に飛び出た土(ヘソ)は、頭をなで付けることで、小舞下地と泥土が剥がれにくくなり、裏側に塗る泥土(裏返し)との一体化に有効になる。
 

 
裏側の土壁を塗る(裏返し)のタイミングには、いろいろな意見があり、古式京壁の左官  佐藤治男さん(保存技術保持者)にも伺ったが、単純にどちらがいいという結論はないらしい。
ここで問題になる点は、小舞下地を境界にして、壁が三枚下ろしのように剥がれ落ちるのを防ぐこと。
数年前に行われた「土壁・石場建て民家」の振動台実験で、最初の揺れで土壁が剥がれ落ちてしまい、土壁の強度が十分に得られなかったことがあり、その時に、小舞下地のマス目の間隔と裏返しの方法がいろいろと話題になった(ニッチな業界内で…)。
 

 
ここでは、裏返しを付ける面(裏なでした面)の硬さが出てきて、乾く前の少し湿った状態の時に泥土をつけている。
この場合は、荒壁土の乾燥に時間がかかるが、剥離を起こす境界面ができにくいので、表と裏の一体化に期待ができる。
 

 
この後、既存の漆喰壁の補修を進めながら、荒壁土の乾燥を待つことになる。
 
 2016.10.04

 

 土壁の修繕と保存(常興寺)

 

 
福井県大野市の浄土真宗本願寺派常興寺の本堂は桁行7間、梁間6間に4本柱の向拝がつき、入母屋造り、桟瓦葺きの大きな屋根が特徴になっている。
 
大正12年に着工し、昭和6年頃に竣工。棟梁は永平寺大工の大久保市左衛門の記録があり、その他にも、落慶法要時の写真も残っている。
 
竣工後80年を超えて、大きな事故も無く今まで来たが、今年の春に大風が吹き、外壁の土壁が大きくひび割れる被害を受けた。
 

 
外から押される力が働き、土壁の荒壁下地から割れが入り、角の部分では仕上げの漆喰が剥離、欠落している。
 

 
土壁が剥がれ落ちた箇所から、この地域の一般的な工法の茅小舞が見えている。
また、間渡し竹は柱に差し込まれていて、竹釘(ウグイス)は見られない。
 
今回、自然災害で壊れてしまったが、建築後90年ほどの長い間、支障なく残ることが出来た理由は土壁の他にはありえない。
 
 
この被害を受けて、修理する計画が持ち上がり、土壁以外の新しい工法も検討したが、やはり、寺院に必要とされる永遠性を考えると、土壁での原状復旧が一番ふさわしいとの結論になった。
 

 
仕上げの漆喰が浮いている部分や、欠けてしまった角部の壁を落とし、下地調整をして漆喰仕上げの塗り直しを予定している。
 

 

 
荒壁土を付け直す壁の下地は、既存部と同じ、間渡し竹と茅小舞にしている。
 

 
ただ、間渡し竹は、深く打ち込んだ竹釘(ウグイス)に緊結して、外れ防止対策をしている。
 
 2016.09.29