建て方…森田

 

 
新築住宅の建て方を行なった。
 
主要な構造部材の柱と梁桁には、福井県産材の杉を使用し、それを現しとしているため、キズや汚れがつかないように慎重に作業を進める必要がある。
また、部材の組み方についても、木と木を組み合わせる伝統的な継手仕口にしているので、部材を差し込み仮組みをして、きれいに取り付くことを確認した後で栓を打ち、締め付けていった。
 

 
一旦、栓を打ち固めてしまうと、取り外すのに時間がかかるので、組み合わせる順番を慎重に確認し、2手3手先を読みながら、材料を組んでいくが、作業が進むにつれて、建物が強ってくるため、融通が効かなくなり、組み入れていくことが難しくなる。
また、準備の段階で、相当のことは検討しているが、木は真っすぐに加工をしても、その後に多少は曲がったり捩じれたりするので、建て方で組んでみると”アレっ”ていうことが起きる。
そうした想定外にも対応しながらの建て方なので、通常の建前より時間と手間がかかることになるが、こうした作業も確認の一種なので、建物にとっては良いことなのだと考えている。
 

 
最近では、このような木を組み合わせる建て方が少なくなったので、作業の開始時にはなかなか調子が出なかったが、伝統工法を経験した大工さんを頼んでいたので、すぐに馴れていったが、それでも進行のゆっくりとした建て方になった。
建て方の一日目で、梁桁を組上げることが出来たので、まずは一安心している。
二日目は垂木より上の屋根の作業なので、安全第一で作業を進めたい。
天候が絶好の秋晴れに恵まれたので、何よりの建前になっている。
 2015.10.17

 

 土壁と長期維持

 

色土壁のサンプル


 
伝統的な木造建築の土壁には、さまざまな色があり、左官の仕上げ方との組み合わせで、多様な表現ができる。
 
産出される土地が異なると土の色や性質が違い、京都の聚楽第跡から出る土は茶褐色で、経年変化で黒いサビと呼ばれる色の変化が好まれる。滋賀江州産の白土は古くは漆喰の白壁の代わりに使われ、漆喰壁より優しい感じがするため大津壁として使われる。
京都伏見で産出される稲荷土は黄色、大阪土は赤褐色など、多くの色土があり、それを平滑に塗ったり、撫ぜ切りと呼ばれる土の風合いを残した仕上げをしたりして建築の表情にしてきた。
 

産地により色が違う



このような色土壁の技術は京都で発展してきたが、最近では建材品の壁が簡単で早くて安いため、すっかり取って代わり、色土壁は本家の京都でも使われることは少なく、文化財の修理や一部の数寄屋建築で継承さる特別な技術になってしまっている。
伝統的な木造建築を保存・活用し残していこうとする活動の中に、この土壁の仕上げの技術も当然含まれている。失われる恐れがある技術を守るという面もあるが、時間の経過とともに出てくる味わい、風情、雰囲気に伝統的な価値があると認められるからで、新しい建築にはない貫禄を残したいと考えるからだ。
この観点は新しい建築をつくる上でも参考になる。
工場で大量生産される建材品は、新しい時が一番きれいで、古くなるとさみしく感じるため、建材品を多用するほど建築は時間の経過と共にモノの価値としても下がっていくという「製品の価値観」がある。
一方で、聚楽土のように経年変化で出るサビが茶人に喜ばれる仕上げが土壁にはあり、自然素材で造られる伝統的な木造建築には、時間の経過とともに無くなる価値観は見当たらない。古くなって土壁が汚れたり傷ついた場合には、既存の土壁の上から塗り重ねることで、また雰囲気が変わるため、子供の結婚など数十年に一度の模様替えも、畳の表替えや襖紙の張替えと同じく簡単に行なわれた。
 

土壁の補修、重ね塗りができるので容易に模様替えが可能。



安くて工期の早い建材品を多く使った建築が30年から50年で建替えられてしまい、自然素材で造られる伝統的な木造建築は100年を超えて受け継ぐことができ、そのための技術と知恵が蓄積されてきた。
京壁の仕上げの技術は、今では特別なものになっているが、元々は地域に根付いてきた普通の工法で、「急きょ、さっと仕上げる」という緊急対応も含まれていて、京都御所の壁に見られる「漆喰パラリ壁」はもっとも簡単な仕上げとして当時は採られていた。
木造には共通して、この緊急対応的に直したり、根本から修復する技術があり、建築を造る工法そのものに、直して使うという方法が仕込まれている。
長期にわたり安定した味わい深い建築という点から考えると、使える材料と技術は、伝統的で地域的なものに限られてくる。
 2015.09.25

 

 京壁

 

重要文化財を支える京都の名工


 
京都左官協同組合と関西木造住文化研究会による土壁の講習会が行われ、土壁の施工と維持管理について説明があった。
 
木造建築の仕事をしてきて、どうしても理解できなかった左官による壁の工法、その中でも色土の仕上げについて、京都の第一線の職人の方々から貴重な話を聞くことができた。
 
既存の木造建築において、築50年以上の建築物では壁が土壁になっていることが多く、費用の面で許されるなら、それを残して改修することが一番望ましい。
土壁が機能面で優れている点を上げると、構造では、丁寧に仕事をされた厚み60mmの土壁の耐力は、片筋交いに相当することが判っている。環境的には、下地、仕上げともに土を使った土壁の吸湿性は他の材料の及ぶところではなく、現代の和風仕上げでエコと言われる珪藻土は、ボードの下地に薄塗り仕上げのため、土壁に比べると性能は無いと言ってもいい。室内環境を安定化させる要因として、土壁の蓄熱性能の高さが注目されており、今後、ますます研究が進むものと思われる。防火的には、日本では貴重品を収納するために土蔵が造られてきたことからも判る通りだ。
 

 
土壁は美的にも優れていて、京壁は千利休からと言われるように、茶室などの数寄屋建築において発展してきた。
この講習会で説明をされていた左官職人の中でも、奥田左官(下段写真 左)は失われつつある京壁の技術保全に大きく貢献されている職人さんで、本物を後世に残すために、藁も自ら刈りとり集めているとのこと。
京壁で使われる色土には、一般的な茶・褐色、赤土、白土、鼠色、桃色など数多くあることは専門書などで判っていたが、どの産地で取れるのか、今も採取できているのか、京都以外でも入手できるのか、などまでは解らなかった。また、下地から仕上げまでの工程についても、左官職が自然素材を自然環境の中で経験と勘を頼りに進められていて、その奥深さは推測不可能な領域に見えていたので、その話の一部でも聞くことが出来て有意義な時間を得た。
日本の伝統的な建築の主要な部分は、木と土で造られていて、周辺の自然環境から採取され、近所の技術で支えられている。
この狭いサイクルの中にある建築が本当の持続可能な建築だと考えていて、特に土壁について見直したいと思っている。
 2015.09.19