長寿社会の建築へ…住み続けるためのつくり方
周辺環境から建築材料を用意。
風土に適した建物をつくるためには、その地域で育ち、製造し、手に入れることができる材料であることが一番合理的です。
裏山では、自然の理として、毎年の雪と大風で、弱い木は淘汰され、強い木だけが生き残ります。その中から建築にふさわしい木をさらに選別して木材にします。
風雪を耐えた裏山の木から、建築用材に利用できるのは一部でしかありません。
その他にも、瓦、土、竹、和紙…など、地域に根差した材料があります。
それらの材料は、地域の風土の中で培われてきた技術と共に今日に伝えられてきました。
次の世代につなげるために、伝えられてきたものでつくります。
越前瓦は「銀ねず」と呼ばれる色が特徴。凍に強く寒冷地で耐久性があります。
竹を藁縄で編み土壁の下地にします。最近では見ることが少なくなりました。
壁土用の粘土。これに砂と藁を練り込み、十分寝かせてから使います。
丁寧に作られた土壁は100年以上も長持ちします。また、調湿と蓄熱に優れているため、設備機器との組み合わせで、安定した室内環境が計画できます。
木材の特性を活かして組み合わせる。
木材は自然素材ですから、同じモノ、真っすぐなモノ、狂いのないモノは、まずありません。
その木を1本1本、手と目で確かめ、適材適所を考えながら、手作業で木造りの準備を進めることを基本にしています。
自然の木は1本1本特徴があります。反り、痩せによる寸法のくるい、節による欠点、目(繊維)の流れ…。その特徴を確かめることから全てが始まります。
力のかかる小屋梁などには、丸太のまま使った方が強度が期待できます。
柱、梁・桁など構造上主要な部分には、木の繊維を傷めるボルト等を使用しないで、木と木を組み合わせる日本独自の工法「継手仕口」を用いて組み合わせます。
長持ちさせることを目的にして、伝承されてきた工法ですから、後の修繕、改修工事において、解体、再組込み、調整が容易に何度でも可能です。
柱への3方差し、込栓と車知栓打ちで組み込む。木の繊維を傷つけるボルトは極力使用せず、継手仕口は構造計算により確認しています。
力が集中する柱は径6寸5分のケヤキ。その柱に3方向から梁が組み入れ、木栓で締め付けています。
また、構造材としての木は、そのまま化粧材として使うようにしています。
時間の経過で古く汚れ、劣化していく新建材とは違い、風合いと艶、そして歴史を想像させる雰囲気を表現してくれる素材です。
屋根梁に松の丸太梁を化粧現しにしています。
化粧として現しにした構造材の柱、梁、根太。時間の経過とともに色艶が変化し、風合いが出てきます。
建物の経年劣化を理解し、維持管理計画を提案。
日本の伝統建築物には、築1000年を超えるものが存在します。
木材は湿気で腐朽しやすい性質があるため、世界的に見て奇跡のような存在です。
特徴として、雨雪で傷みやすいので、軒の出の深い屋根をつくり、濡れやすく汚れやすい地面に近い壁は板で覆い、屋根は火に強い瓦を葺きます。内部は、地面から高さをとって床を張り、下足を脱いで清潔に保ち、建物を大事に使ってきました。
それでも腐朽した時には部分的に修繕をして、場合によっては、構造部の取替えという木造ならではの工事を繰り返して、建物を長持ちさせてきました。
この日本の伝統建築が築いてきた、持続の為の「技術と知恵」を見直し、人生80年を支える木造建築の参考にすべきと考えます。
使われる材料が、どういう具合に劣化していくのか、その程度を抑えるためにどのように維持していくのか、といったメンテナンスの方法を計画の段階で提案します。
杉板を外壁に使うことが多いです。維持管理の方法は、5年から10年ごとの塗装の塗り重ねで、腐朽することがなければ50年以上は大丈夫です。また、傷んだ箇所は1枚から交換できますから、維持が最も容易な方法と考えています。