長期の維持管理について
改修工事の依頼を受けて現地に出向くと、建物の外見にかなりの傷みがあり、その修繕をまず一番に考えないといけないが、依頼者の優先順位は内部の使い勝手の変更だったりすることがあります。
築後30年ほど、まったく修繕せずに建物を放置していると、あちらこちらに歪みや風蝕が蓄積されます。ただ、中で過ごしている分にはそれほど気にならないし、実際に雨漏りでもしない限りは、どこがまずいのか判らないのかもしれません。
点検のチェック項目をあげると
1.基礎のひび割れや歪み、蟻道など
2.土台、柱、梁などで腐朽や緩み
3.屋根、外壁で塗装のハガレやサビ、浮き・変形など
4.雨樋のゴミ、ハズレ、垂れ下り
5.窓、戸の周辺の隙間
6.設備機器等の水漏れ、配管の詰まりなど
たまには所有者として建物をぐるりと回り、点検することをおすすめします。
早めに気がついて、大事になる前に手当ができますから安い費用で済みます。また、外観を綺麗に保っておくことは、雨水の浸入や蟻害の被害拡大を防ぐほかに周囲にも好印象を与えるので、きっと幸運も呼び込むことにつながるでしょう…。
一.約30年のサイクルで維持計画をする
だいたい築30年を過ぎた頃から、所有している建物の改修・改造を考えるようになるようです。それは、設備機器や内外装の老朽化が目につくようになり、使っている人の身体的、社会的な変化で、建物を使いやすいようにまた綺麗にしたい希望からです。
その時にきちんと維持管理されている建物ですと、予算を大きく超える計画にならずに改修工事が進み、快適性と安全性を向上させた新しい建物に再生させることができます。
しかし、定期的な維持管理には費用も相当にかかるので、わかっていてもできないことが現実です。ついつい、気づいていながらも、所有する建物にまで注力がまわらずに年月が経ち、改修・改造時期を迎えた時には、あまりに費用がかかる状態になってしまい、「いっそ建替えてしまった方がいいのでは…」となって、結果、多くの住宅の耐用年数が30年を切ってしまっている原因になっていると思います。
築後30年から50年のまだ現役の建物の建替えは、費用的にも環境的にもモッタイナイので、計画的に維持管理をして長期間のトータルコストで考える。そのために、建築後30年を1サイクルとして建物を管理する考え方があります。
二.計画的な更新、復旧工事で建物の構造を傷めない
30年サイクルの維持管理では、必要になる工事を定期的に見込んでおきます。実際に行うかは日常の点検で判断することにして、築後5年、10年、20年目をめどに、老朽化してくる部分が出てくるので、定期的な対応が必要になることを心づもりしておくということです。
上の図の右側、「雨漏りや水漏れ、機器の故障」のような突然に発生する不具合には、すぐに対処する方がいいです。
その上で、「定期的に計画」に記した「更新、復旧工事」を見込むことで、新築時の機能的な状態を維持する、それは、雨漏りさせない、腐朽・蟻害の被害を抑える、痛みをひどくさせないことが目的にあります。
外壁材の塗装、防水部分の更新、屋根材の葺き替えなどが該当します。これにより構造材などの建物の主要部分の状態を保ちながら次の改修時期を迎えることができます。
三.建物を再生させる時の優先順位
築後30年を過ぎると、社会環境や家族構成、個人の身体状況が変わりますし、新しい設備機器を入れたり、耐震構造の強化も必要になるなど、建物の機能やカタチを変更して、より使いやすく、安全で綺麗にしたいとの希望が出てきます。
この建物の見直し=再生に際して、工事の目的に優先順位をつけると
⑴ 修繕工事・・・経年劣化や不具合に対応
・屋根、外壁などの汚れ落とし
・雨樋の清掃
・給排水設備機器の水漏れなどの異常時の対応
・電気設備機器の保安点検
⑵ 更新、復旧工事・・・現状維持の対応
・外壁、屋根の塗り替え、防水部のコーキングの打ち替え
・外壁材の貼り替え、屋根の葺き替え
・内装材(天井、壁、床)の塗り替え、張替え
・襖、障子の張替え
・構造材の腐朽、劣化部分の取り替え
・設備機器の入れ替え
⑶ 構造、防災、断熱 補強対策工事・・・法律、仕様基準の見直しに合わせる
・構造部材の補強 ・耐震補強
・省エネルギー化への対応
・防火対策など
⑷ 改修・改造工事・・・身体的な変化、家族構成の変化により使い勝手を変更
・バリアフリー工事
・間仕切りの変更 ・増築、減築工事
・新しい設備機器の導入など
この順番を飛び越して、改修・改造工事を優先させる場合は、建物維持の次のサイクルに入らないことを確認した時ですから、特別な場合と言えます。
日常の点検と定期的な維持管理の計画を行っていると、改修・改造=再生工事にスムーズに入ることができます。
まとめとして、
このようなことを言うと、経済的に大変だと思われるかもしれませんが、ほったらかしで築30年を迎えることの方が、建物存亡の危機になり、より大きな経済的負担を招くことになります。
日本人の平均寿命は80歳を超えています。築30年のサイクルを何歳で迎えるかはすぐに計算できます。特に住宅のような基本的な生活の場を、人生の晩年に不安定にさせないことは大事なことです。